今回のテーマは、「分子接合のメカニズム」についてです。異なる材料同士を接着剤を使わずに結合させる、分子接合技術の仕組みを解説します。
分子接合技術のメカニズムを説明する前に、異種材料を(接着剤を使わずに)直接接合することが難しい理由を説明します。
すべての材料は、表面エネルギーや極性といった材料固有の表面特性を持っています。これらの特性が異なる材料どうしを接触させても、分子間力(ファンデルワールス力、水素結合)が働くだけで、強固な結合である化学結合やイオン結合が自然に発生することはありません。また、2つの材料の表面特性が異なると、分子間力が発現する分子間距離(数nm以下)を維持することができません。このため、異種材料の直接接合は難しいのです。
それでは、表面特性が異なる2つの被着体を、接着剤を使わずに接合する分子接合のメカニズムを説明します。
前回のおさらいですが、MB剤の官能基Yは、主に有機物と化学結合するという特徴があります。被着体Aと被着体B(どちらも高分子材料)の表面にMB剤の官能基Yを化学結合させると、両方の表面が官能基Xで終端された状態になります。つまりMB剤を用いて、異なる材料の表面を同じ表面特性にすることができます。ちなみにこの処理を、MB処理と呼びます。
またMB剤の官能基Xには、「官能基Xどうしも化学結合する」という特徴もあります。MB処理をした被着体Aと被着体Bを、官能基Xどうしが化学反応する距離まで接近させ、それぞれの官能基Xどうしを化学結合させることで、被着体Aと被着体Bを化学結合で繋げることができるのです。
これが、分子接合技術の発端となった接合メカニズムです。
官能基Xにはもう一つ、主に無機物と化学結合する特徴があります。この特徴を利用した接合のメカニズムを紹介いたします。
まず、被着体AにMB処理をします。続いて、表面を清浄にした被着体C(無機物)に接触させ、官能基Xと被着体Cを化学結合させることで接合します。
つまり、被着体Cが官能基Xと反応する場合は、被着体A側だけにMB処理することで接合できるという訳です。
以上2つの接合メカニズムを基本として、弊社では多様な分子接合プロセスを開発しています。例えば、片方の被着体に2層のMB剤層を形成して終端官能基を変換したり、被着体を構成する分子から接合に使える官能基を表面に生成したり、既存のMB剤でうまくいかないときには、新しいMB剤を合成することもあります。
ここまでの説明で、分子接合技術であらゆる材料が接合できるように思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実際には工程上のいくつかの要件を満たさないと、強固な接合は実現できないのです。
そこで次回のテーマは、「分子接合の必要条件」について説明いたします。
いおう化学研究所では、分子接合技術で「モノをつなぐ、技術をつなぐ、人をつなぐ。」をミッションに、岩手の大地から世界を動かす技術革新を生み出し、持続可能な未来への挑戦と貢献を続けていきます。分子接合に関するご相談・お問い合わせはこちらからご連絡ください。
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